デジタルインボイス(Peppol)の仕組みと普及に向けての課題
デジタルインボイスやPeppolという言葉を耳にしたことはあるでしょうか。
近年、企業の業務効率化が進む中で、これらの用語が注目を集めています。
しかし、その具体的な仕組みや現在の状況は、まだ多くの人にとって馴染みがないかもしれません。
この記事では、日本標準のデジタルインボイスであるPeppolの仕組みと普及に向けての課題について解説します。
目次
デジタルインボイス(Peppol)とは?
デジタルインボイス(Peppol)とは、請求書の送信側、受信側の双方で共通的なデータフォーマットで請求情報をやり取りする仕組みを指します。
請求書(インボイス)などの電子文書を効率的に交換するための「文書仕様」「運用ルール」「ネットワーク」が定められており、デジタルで請求情報をやりとりすることで、下記のようなメリットが得られ、事業者の効率的な業務を可能とします。
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コスト削減
印刷費や郵送費が不要になるため、コストが削減されます。 -
効率化
手作業による入力ミスや紛失のリスクが減少し、業務が効率化されます。 -
迅速な処理
電子的に送受信されるため、請求書の処理が迅速に行えます。 -
入金消込まで自動化
全銀EDIシステム(ZEDI)と組み合わせる事で入金消込まで自動化できます。
近しい言葉として「電子インボイス」がありますが、電子インボイスは請求データをPDFでやり取りするものとして区別されます。
日本では2023年にPeppolをベースとして日本版のデジタルインボイス標準仕様である「JP PINT」が策定され、2023年10月から開始したインボイス制度(適格請求書等保存方式)に対応した企業間取引のネットワークの1つとして、普及が進んでいます。
現在、デジタルインボイス推進協議会(通称:EIPA)を中心に請求書に関する各種サービスベンダーが開発、相互の送受信確認を行いながら準備を進めており、2024年後半から対応サービスが増えてくることが予想されます。
デジタルインボイス(Peppol)の仕組み
デジタルインボイスの仕組みは電子メールの仕組みと似ているといわれています。
Peppolは「4コーナーモデル」というアーキテクチャを採用しています。
この仕組みは以下の4つの要素で構成されています。
C1: 売り手(ユーザー)
C2: 売り手のアクセスポイント
C3: 買い手のアクセスポイント
C4: 買い手(ユーザー)
ユーザーは自社のアクセスポイントを通じてPeppolネットワークに接続し、相手先のアクセスポイントにデータを送信します。
デジタルインボイス(Peppol)の課題
デジタルインボイスが普及すればさまざまなメリットが期待されていますが、普及に向けて大きな課題がいくつか存在します。
1. Peppolネットワークの利用コストがかかる
1つ目の課題はコストです。
メールで請求書を送受信する場合は、送受信の費用を意識することはありませんが、Peppolネットワークでデジタルインボイスの送信を行うにはアクセスポイントの運営事業者に1件あたり数円~数十円の費用を支払う必要があります。実際は何らかの請求書の送信サービスを経由してPeppolを利用することになるため、直接費用を負担するわけではありませんが、何らかの形で利用者が費用を負担することになります。
2. 利用ベンダーの乗り換えが気軽にできない可能性がある
Peppolネットワークでデジタルインボイスを送受信するためには、自社がどのアクセスポイントにいるのか登録する必要があります。請求書の送受信サービスAからサービスBへと乗り換えたいと思っても、アクセスポイントの変更手続きがスムーズにいかない可能性が高いので、乗り換え時の制限や手続きについて事前に確認しておきましょう。
3. 日本の制度や商習慣をカバーできていない
国際規格であるPINTを日本向けにカスタマイズしてJP PINTを定義していますが、源泉徴収税額など日本独自の項目には対応できていない部分があります。今後JP-PINTのバージョンアップで日本独自の制度や商習慣への対応が期待されていますが、現時点ではメモ欄に入れるなどのデジタル処理に向かない方法でやりとりする情報が存在します。
4. 過渡期はより業務が複雑になり導入メリットが感じづらい
多くの事業者では郵送とメールで請求書の送受信を行っていますが、新たにPeppolという選択肢が加わり、相手に合わせて3種類の送付方法を使い分ける必要があり、過渡期は業務の複雑さが増すことになります。
一気にデジタルインボイスの普及が進めば良いですが、紙でのやりとりさえ無くならない現状を踏まえると過渡期は長く続くことが予想されます。
現実的な解はハイブリット型か。
デジタルインボイスを無理なく実現する方法として、PDFにデジタルデータを添付してメールで送るハイブリット型に期待する声もあります。
受信側がデジタルインボイスに対応していない場合は従来どおりPDFで内容を確認し、デジタルインボイスに対応している場合は添付されているデジタルデータを使って処理をするという方式です。
このような方式であれば無理なくアナログとデジタルを混在させ、徐々にデジタル化を進めて行くというアプローチが可能となります。