「グリーン調達」とは?脱炭素経営に活用するためのポイント
あらゆる企業の経営に「環境共生」という視点が必要不可欠な時代になりました。そこでカギとなるのが、環境に配慮した調達を行う「グリーン調達」です。「環境」には水や資源循環、化学物質など多様な要素が含まれますが、本記事では主に気候変動対策・温室効果ガス(GHG)削減という観点から、グリーン調達の基礎知識や事例紹介に加えて、再生可能エネルギーの調達について解説します。
そもそもグリーン調達とは?
脱炭素経営に取り組むサプライヤーから調達
グリーン調達の指南書である環境省の「グリーン調達推進ガイドライン(暫定版)」(2012年3月発行)は、こう定義しています。
「グリーン調達は、納入先企業が、サプライヤーから環境負荷の少ない製商品・サービスや環境配慮等に積極的に取り組んでいる企業から優先的に調達するものです。このグリーン調達は、納入先企業の環境配慮の取組方針や事業戦略に沿って実施されます。」
こちらの定義では環境経営に積極的なサプライヤーからの調達と定義づけていますが、経営姿勢だけでなく、定量的かつ客観的な指標として製品やサービスごとのGHGの排出量を公開しているサプライヤーからの調達が重視されていくことになります。
バリューチェーンに「環境」という価値
同ガイドラインはグリーン調達の必要性について、こう記しています。
「主として企業のバリューチェーンマネジメント(VCM)の一環として実施されます。VCMでは、原料の調達企業、仕入れ業者、自社の製品の生産に関わる川上企業から川下企業、製品等の使用者、そして廃棄に至るまでライフサイクル全体を視野に入れて、環境負荷の低減と付加価値の増大を図ることを目的とします。」
ここに出てくる「バリューチェーン」に似た言葉として「サプライチェーン」があります。ともに製品やサービスの原材料調達から生産、販売、輸送、使用、廃棄・リサイクルに至る一連の流れを指している点は同じです。
ただし、サプライチェーンが物理的な流れを指すのに対して、バリューチェーンは流れの各段階が生み出す価値に焦点を当てています。とくに「付加価値の増大」というキーワードは重要です。
これまでサプライチェーンで重視されるのは「QCD(品質・コスト・納期)」でした。現在はそれにプラスして「環境」という価値が必要不可欠に。つまり、サプライヤー側にとっては環境に配慮した製品やサービスを提供することが付加価値になり、調達側にとってはそうしたサプライヤーと取引を行うことが自社の企業価値を高めるカギとなります。
なお、サプライチェーンのGHG削減については、別記事の「「炭素会計」とは?GHG排出量の算定から削減の実行、情報開示のポイントまで解説」で解説しています。
グリーン調達を進めることが、環境負荷の低減と企業価値の向上という相乗効果を生む
(図:環境省「グリーン調達推進ガイドライン(暫定版)」)
グリーン調達を進めやすくする内部炭素価格(ICP)
社内炭素価格(Internal Carbon Pricing)は企業が自主的に導入する「GHGの排出コストを含めて意思決定を行う」ための仕組みです。
例えば、調達先としてA社とB社を比較しており、A社の製品はコストは安いがGHG排出量が多く、B社の製品はコストは少し高いもののGHG排出量は少ないとします。このような場合に、両社のGHG排出量に社内炭素価格をかけて排出コストを価格へと変換し、同じ指標で比較できるようにすることで、省エネ型・低炭素の設備やサービスの導入が進めやすくなります。
内部炭素価格はカーボンクレジットの市場価格をベースに1t-CO2eq辺り数千円~数万円で設定するのが一般的です。環境価値を金銭的な指標へと変換することでGHG排出のコストを可視化でき、削減に向けた設備やサービスの導入が進めやすくなります。
環境省が「インターナルカーボンプライシング活用ガイドライン」を発表し、導入する企業も増加しています。
グリーン調達3つの事例
「グリーン調達推進ガイドライン」が記す通り、グリーン調達は各企業の取組方針や事業戦略に沿って行われます。GHG削減に関係する項目を中心に、3つの事例を紹介しましょう。
「TOYOTAグリーン調達ガイドライン」(トヨタ自動車)
「トヨタ環境チャレンジ2050」(2015年策定)で、環境負荷を限りなくゼロにし、ゼロにとどまらない「プラスの世界」へのチャレンジを表明。それを踏まえて1)環境マネジメントシステムの構築、2)GHGの削減、3)水環境インパクトの削減、4)資源循環の促進、5)化学物質の管理、6)自然共生社会の構築という6項目をサプライヤーに依頼しています。
GHGの削減においては「納入する製品・サービスのライフサイクルでの削減」を前提に、以下のような取り組みを奨励しています。
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・購入資材におけるGHG削減
部品の軽量化、製造時のGHG排出量が少ない原材料の利用促進、再生材の利用促進、バイオマス素材の利用促進。 -
・拠点におけるGHG削減
工場、研究所、事務所、営業所、物流施設など拠点全体のGHG排出実績を管理し、削減に取り組む。 -
・物流におけるGHG削減
トヨタへの納入物流、トヨタからの委託物流の両方においてGHGを削減。委託物流に関しては月々の実績や削減の進捗状況を定期的に報告する。
省エネ・再エネ化、物流車両の電動化など、脱炭素につながるあらゆる施策をあらゆる段階において、サプライヤーに求めていることが伺えます。
「DNPグループサステナブル調達ガイドライン」(大日本印刷)
DNPグループとそのビジネスパートナーが、ともに社会的責任を果たしていくためのガイドライン。1)法令遵守・国際規制の尊重、2)人権・労働、3)安全衛生、4)環境、5)公正取引・倫理、6)製品の安全性・品質、7)情報セキュリティ、8)事業継続計画という8項目を、サプライヤーが取り組む事項として定めています。
そして「4)環境」の中で「エネルギー効率改善に努め、GHG排出量についてSBT1.5℃水準の自主目標を設定し、継続的削減活動や再生可能エネルギーの積極的導入に取り組む」としています。
これはDNPグループが掲げる「環境ビジョン2050」(2020年策定)の「GHG排出量の実質ゼロを目指す」を見据えたものです。そのためにサプライヤーにも、国際的な脱炭素のイニシアティブであるSBT(Science Based Target)の認証取得またはSBTに準拠した目標設定を求めています。
こうした動きは他の業種でも増えており、中小企業を含めてSBTへのコミット数や認証取得数を押し上げています。SBTについては、別記事の『「炭素会計」とは?GHG排出量の算定から削減の実行、情報開示のポイントまで解説』で解説しています。
「ICT分野におけるエコロジーガイドライン」(電気通信事業者協会)
ICT分野におけるグリーン調達のガイドラインとして、NTTグループをはじめ多くの企業が参照。ICTサービスの規模や通信量の増大による電力消費量・GHG排出量の増加を抑えるため、装置やサービスを調達する際の基準を示しています。
下記のような条件を満たした電気通信事業者を対象に「エコICTマーク」も発行しています。
- ・省エネによるGHG削減に向けた環境自主行動計画を策定・運用している。
- ・ICT機器やデータセンターについて、同ガイドラインに基づいた調達を行っている。
- ・削減目標等の実施・達成状況の把握・内部監査など推進体制が整っている。
このようにICT分野では、企業の垣根を超えて業界として調達ガイドラインを策定しています。2010年からの10年間で世界全体のインターネット上でやり取りされるデータ量が20倍近く増えたのに対して、データセンターの消費電力量は1割程度の増加にとどまったという調査報告もあります。
その要因は省エネ技術の進化、仮想化による負荷の分散、オペレーションの効率化などいくつか考えられますが、グリーン調達という考え方が浸透したことも一定の貢献を果たしているかもしれません。
サプライヤーが押さえておきたい2つのポイント
これまではグリーン調達について、主に調達する側の視点で解説してきました。ここからは、製品やサービスを納入するサプライヤーとして、納入先に「選ばれる」ための取り組みを2つ紹介します。
認証の取得:ISO14001とエコアクション21
環境への取り組みを客観的に示す基準として、第三者による認証があります。2つの代表的な認証制度を紹介します。
ISO14001
環境マネジメントシステムに関する国際規格。1)環境パフォーマンスの向上、2)順守義務を満たす、3)環境目標の達成という3つの観点から、製品やサービスの提供において環境に配慮した取り組みを行う企業を認証します。
サプライヤーは「環境マネジメントシステム(EMS)」を構築し、PDCAサイクルにのっとった継続的な取り組みが求められます。すなわちPlan(行動計画の策定)、Do(計画の実施)、Check(成果のレビュー)、 Action(課題の改善)を繰り返して改善を図り、脱炭素をはじめとする環境経営の改善を図っていきます。
ISO(国際標準化機構)は、スイス・ジュネーブに本部を置く非営利団体です。認証には2回の審査をパスし、取得後も定期的に審査を受ける必要があるなど、ハードルは決して低くありません。しかし世界的に通用する規格として、海外と取引のある場合は高い信頼性を担保できます。
PDCAサイクルによる環境マネジメントシステムの運用
(図:一般財団法人日本品質保証機構)
エコアクション21
環境省が立ち上げた、日本独自の環境マネジメントシステム。PDCAサイクルの採用などはISO14001をベースにしつつ、中小企業が取り組みやすい工夫を盛り込んでいることが特徴です。
たとえば、必ず把握すべき項目として「CO2排出量、廃棄物排出量、水使用量」を規定。さらに省エネ、廃棄物の削減、リサイクル、節水など何をするべきかを具体的に規定しており、明確なガイドラインに沿って取り組みを進めることができます。
エコアクション21は、取り組みの成果を「環境経営レポート」にまとめて公表することを規定しています。これは外部へのアピールとなり、新たな取引先の開拓や金融機関からの融資など、さまざまな場面で有効活用できます。
一次データの算定・公開
製造や流通、使用段階でのGHG排出量が少ないことは、製品やサービスが選ばれる重要なポイントになりました。そのためには製品やサービスごとのGHG排出量を算定し「一次データ」として公開する事が必要になります。
これまでサプライチェーン(またはバリューチェーン)全体のGHG排出量は、納入先企業が既存のデータベースをもとに大まかな推計値で算出するのが一般的でした。仕入先が購入している製品やサービスごとの排出量を正確に把握していない事も多く、数多くの取引先から正確な一次データを入手して算定する事は作業的にも困難である事が原因です。
しかしサプライチェーン排出量の削減に取り組む際には、GHG排出量が把握でき、より排出量の少ないサプライヤーから製品やサービスを調達する必要が出てきます。
アメリカのDell(デル)のように、製品の型番ごとにカーボンフットプリントを算定している企業もあります。CSR(企業の社会的責任)という観点はもちろん、こうした取り組みがGHG排出量削減に取り組む事業者に選ばれるポイントになります。
排出量の算定方法やカーボンフットプリントについては、別記事の「「炭素会計」とは?GHG排出量の算定から削減の実行、情報開示のポイントまで解説」で解説しています。
一次データは二次データと異なり、サプライヤーの削減努力を反映できる
(図:経済産業省GX推進企画室「サプライチェーン全体でのカーボンニュートラルに向けたカーボンフットプリントを巡る動向」)
再エネ電力への切り替え
グリーン調達で多くの事業者に関係し、取り組みやすいのが再エネの導入です。再生可能エネルギー(再エネ)とは、太陽光や風力、水力など自然界にあるエネルギーのことで「自然エネルギー」とも呼ばれます。化石燃料(石炭・石油・天然ガス)と違って枯渇の心配がなく、発電時にGHGをほとんど排出せず、原子力と違って安全性も高いため、脱炭素社会の中心的なエネルギーとして期待されています。
一例として、工場で使用する電力を再エネに切り替え、物流用車両を再エネ電力で充電するEV(電気自動車)に置き換えれば、製造・物流段階でのGHG排出量をゼロに近づけることができます。また、建物の屋根や壁に太陽光発電パネルを設置して自家発電を行えば、電力会社から購入する電力量を抑えることができ、電気代の節約にもつながります。
自前での設置が難しい場合は、小売会社と再エネ電力の契約を結ぶ方法や、再エネ電力証書を購入する方法があります。近年は、新規建設された再エネ発電所と契約を結ぶオフサイトPPA(Power Purchase Agreement:電力購入契約)も増えています。既存の発電所でなく「新規建設」が条件になっているのは、国や地域への再エネ電力の普及に貢献するという考えからです。
まとめ「サステナブル調達」も視野に
以上、グリーン調達について説明してきました。近年はさらに一歩進んだ「CSR調達」や「サステナブル調達」という言葉も耳にします。これは環境に加えて、社会や人権といった視点も踏まえた調達方法です。とくにサプライチェーン上の児童労働や強制労働は喫緊の課題として、撲滅に向けた対策が求められています。そのためには、GHG削減や環境への配慮が人々の健康や暮らしの改善に結びつくなど、課題間の「つながり」を意識することも大切です。持続可能な社会に向けて、自社の調達活動を見直してみてはいかがでしょうか。