炭素会計 実践入門3|情報開示
脱炭素への取り組みとしてCO2排出量を算定したものの、「どこまで公開すべき?」「どんな形式が正解?」と悩む企業は少なくありません。
取引先や投資家など、ステークホルダーの関心が高まる中では、信頼性のあるフレームワークに則った情報開示が求められます。
本記事では、「炭素会計 実践入門1|CO2排出量の算定」「炭素会計 実践入門2|目標設定・削減」に続くシリーズ第3弾として、CO2排出量などの情報開示に役立つ知識や実務のステップを紹介します。
本シリーズ「炭素会計 実践入門」では、脱炭素経営に必要な炭素会計の基礎と実務を解説しています。
目次
情報開示のフレームワーク
2025年現在、情報開示のフレームワークは乱立状態にあり、統廃合が進行中です。
今後も状況が変わる可能性がありますが、本記事では、最低限押さえておきたい「TCFD」「CDP」「ISSB/SSBJ」の3つを紹介します。
情報を公開する際は、いずれかのフレームワークに沿って開示することで、情報が体系的で分かりやすくなります。
TCFD
気候変動が企業の財務に与える影響を開示するためのフレームワークです。日本では、プライム市場上場企業に対して、TCFDまたはそれと同等以上の開示が義務付けられており、多くの企業がTCFDに沿って情報を公開しています。今後開示を始める企業にとっても、有力な選択肢です。
開示項目
TCFDは、ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標の4つの軸での情報開示が要求されます。
このうち、CO2排出量は「指標と目標」の項目で開示されます。
(図:環境省「TCFDを活用した経営戦略立案のススメ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド ver.3.0~」より)
これらを検討することは、情報開示の有無にかかわらず、自組織への影響を整理するうえで有効です。
「TCFD サステナビリティレポート」等で検索すると、各社の開示事例も確認できるので参考にするのも良いでしょう。
CDP
CDPは、企業の環境情報を収集・評価するための情報開示プラットフォームです。
投資家や大手企業などからの依頼に応じて、対象企業に質問票が送付され、それに回答することで、環境への取り組み状況が8段階でスコア化されます。
自主的に回答することも可能で、スコアはCDPの会員に公開されます。
主な質問項目
気候変動のほか、水セキュリティやフォレスト(森林保全)など、TCFDより広範な分野をカバーしています。TCFDの要素(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標と目標等)も含まれており、質問数も多いため、回答する場合は外部の専門家の支援を受ける選択肢も考えられます。
ISSB/SSBJ
ISSBは、サステナビリティ報告の国際基準を策定するためにIFRS財団が設立した組織で、TCFDの役割も引き継いでいます。TCFDは2023年10月に解散しましたが、その内容はISSBへと移管されています。
日本では、SSBJがISSBの国際基準を基に審議を行い、2025年3月に国内基準を公表しています。
2025年現在もTCFDは自主的な情報開示フレームワークとして有効ですが、上場企業などには、今後より厳密なISSB/SSBJ基準による開示が求められると考えられます。
情報開示の実践
情報開示は、「誰に」「何の情報を」「どのように」開示するかを、目的に応じて整理することが重要です。
このように、目的ごとに最適な情報や開示手段は異なります。まずは自社の目的を明確にすることから始めましょう。
自主的な開示の一般的なステップとしては、まずCO2排出量(Scope1・2)を算定し、次にScope3へ拡大。網羅的な開示を行う段階では、TCFDに沿った内容に進みます。
TCFDの要素は、CDPやISSB/SSBJの基準にも受け継がれています。したがって、まずはTCFDに沿った開示を目指し、その他フレームワークについては今後の動向を見つつ対応するのが現時点でのベストプラクティスといえます。
まとめ:まずは「誰に」「何を伝えるか」の整理から
情報開示は、企業の脱炭素への姿勢を伝える大事な手段です。
開示の形式やフレームワークに正解はありませんが、「誰に」「どんな目的で」伝えるかによって、選ぶべき手法が変わってきます。
最初の一歩としては、自社のCO2排出量を把握し、TCFDに沿って整理するのがおすすめです。
ISSB/SSBJなど国際基準への対応も進んでいますが、まずはできる範囲から始めることが、継続的な開示につながります。
参考リンク集
CO2排出量などの情報開示にあたって、実務で役立つ公的資料や関連サイトを紹介します。各フレームワークに関する概要や事例を確認する際にご活用ください。
TCFD関連
- 環境省|【簡易版】TCFDシナリオ分析実践ガイド
- TCFDに基づいた情報開示を検討する企業向けに、分析ステップを簡潔に紹介しています。
- 環境省|TCFDシナリオ分析 開示事例・ツール紹介
- 実際の開示事例や、分析に活用できるツールが一覧でまとめられています。
- 環境省|気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)
- 国内のTCFD関連施策や支援資料の情報を網羅的に確認できます。
他にも『TCFD サステナビリティレポート』で検索し、各社の実際の開示事例を確認するのもおすすめです。
CDP関連
- CDP公式サイト
- 環境省|CDPからの情報提供
- CDPの概要や、質問票への対応に関する基礎情報が掲載されています。
ISSB/SSBJ関連
- ISSB(IFRS)公式サイト
- SSBJ公式サイト
- SSBJ|適用にあたっての関連情報―SSBJハンドブック
- 情報開示に向けた実務対応を検討する際の参考になります。
- SSBJ|SSBJ基準案の概要
- 基準策定の背景や構成要素についての解説資料です。
invox炭素会計なら、脱炭素経営がもっと手軽に
invox炭素会計は、温室効果ガスの排出量を算定し、目標設定ツールで削減目標と計画を作成可能。
グリーン調達やカーボンクレジットを利用したオフセット支援まで、企業の脱炭素経営をまるごとサポートする、ずっと低コストな炭素会計システムです。
炭素会計についてお悩みの場合、個別相談会で詳細をご相談ください。
セミナー等でよくいただく質問をまとめた炭素会計 Q&Aも公開しています。